吉祥寺GORILLA 「溺れるように走る街」

ご時世諸々あり、暫く観劇から離れた生活をしていた。

個人的な理由としては、今年パニック障害の診断を受け、

大きすぎる音や、人込み、他にも幾つかの苦手要素が増え、劇場に行かなくなった。

 

Twitterのスペース機能で久しぶりに話した後輩が芝居に出るからよかったら、と声をかけてくれた。

 

幸い、最近身体も調子が良い。

朗らかで人当たりの良い、見た目だけがやたらとイカツイ、

個人的にとても"推し"ていた後輩からの誘いということもあり、

行ってみることにした。

 

劇場は東京 中野にある劇場HOPE。初めて行くハコだ。

吉祥寺GORILLAという劇団の作品らしい。

詳細をよく読まず、てっきり吉祥寺での公演だと数日思い込んでいた。

 

中野に行くなら、気になって食べログに保存していたあの店でご飯も食べよう、

そんなことを呑気に思いながら、劇場に向かった。

 

私が観劇したのは初日の昼公演。初回だ。

 

初回は妙なパワーがある。

演劇好き、芝居に身を置いた人間なら誰しもが感じると思う。

演劇をよく知らない人でも、その感覚を想像するのはさほど難しくないと思う。

 

何日も、何か月も準備してきたものを、やっとお客さんの前で披露する。

緊張感も高揚感も一層高まる。

 

そんなパワーに満ちた初回を見に行けたのは嬉しい。

定職に就いていたらこうはいかない。

 

 

自分の症状による多少の不安はあれど、

遠足に出かける子供さながら、劇場HOPEへ向かった。

 

検温・アルコール消毒を済ませて会場へ入る。

小劇場作品ではまだまだ少ない(と私は感じている)指定席だった。

 

なんと最前列。

久しぶりの観劇が最前列とはツイているやら、なんやら。

前述したとおり、大きな音を避けて生活している事から一抹の不安がよぎる。

しかし、これが杞憂であることがすぐにわかる。

 

開場中に流れているBGM、どれもこれも聞きなじみがある。

暫く聞いているうちに気付く。

 

「全部ラジオで使われてる曲だな・・・?」

 

”ハライチのターン”をこよなく愛する私は、

(((さらうんど)))の"夜のライン"で限界だった。

勝手に脳内でハライチのお二人が喋りだしてしまった。

「今週の猫ちゃんニュース」が始まりかけたので、手元のパンフレットに集中することにした。

 

 

今回の作品はラジオとその周りの人々の話だった。

作・演出の平井隆也さんは恐らく相当のラジオ好きなんだろう。

作品の中にもその愛情がたっぷり詰まっていた。

 

前置きが長くなったが、やっと作品の感想を書いていこうと思う。

 

~究極にざっくりしたあらすじ~

 

お笑いコンビ「ダブルマインド」のラジオ番組、

「ダブルマインドの暴走三輪車」を聞く人々、作る人々。

それぞれの人々は、何を感じて、どんな風に、生きているのか。

 

~あらすじ おしまい~

 

小劇場上演でこんなにほっこりと、

暖かい気持ちにしてくれる作品は、案外少ない気がする。

 

一人一人のキャラクターが愛くるしくて仕方ない。

 

眠れない、素直になれない妹。

明るくて強くて優しい姉。

ついつい見栄を張ってしまうフリーター。

 

ダブルマインドの二人。

ディレクター、AD、構成作家、音響さん、マネージャー。

 

全力でギャグをかます、中年先輩芸人。

暖かく支える、ひだまりのような妻。

 

彼らが全員、もれなく、愛おしい。

この作品、”悪人"がいない。

アイツ嫌だな~!と思わせるキャラクターが一人もいない。

誰が一番好きか、と聞かれたら結構悩んでしまう。

 

強いて言うのであれば、どうしても一人選ぶのならば、

 

私はダブルマインドのボケ担当、櫻井さんが好き。

多分、櫻井さん大人気だと思う。

天日干しした後の羽毛布団くらいあったかい。やさしい。

演じてられていた川上献心さんのTwitterを拝見して驚いたのが、

「喋るの苦手な僕がラジオアプリをインストールして特訓したお喋りをついに解放しております」(原文ママ)とのこと。

 

 嘘 だ ろ 。

 

いやいや絶対NSCとかにいたでしょう。

テンポ感が完全にJ〇NKのそれ。

めちゃくちゃ喋るじゃん。童貞の虚妄について話す伊〇院光くらい、生き生き喋るじゃん。

 

ラストシーンで、ツッコミの小林と話すシーンが一番ぐっときた。

 

ラストシーンもずっと天日干し羽毛布団。

多分めちゃくちゃ良い奥さん貰う。

2回くらい風俗と浮気バレるけど、反省してちゃんとパパ業も頑張る、いい旦那さんになると思う。知らんけど

 

 

作品の中で、フリーターの青年 田中がradikoの遅延について話すシーンがあった。

 

私はリアルタイムで聞くことの方が少ないのでradikoのタイムフリー機能で様々な番組を聞いている。

田中くんは「今度、機会があったら、ラジカセでも」とかオススメしてくれるんだろうか。

 

ラジカセで聞くラジオもいいなと思いつつ、茨城の実家に住んでいた頃、どんなにアンテナを伸ばしてあらゆるところに向けてみてもAMラジオが入らず、ずっとFMぱるるん(ローカルラジオ局)を聞き続けたのを思い出す。

メールを送ると直ぐに次のコーナーで読んでもらえたのも良い思い出だ。

 

田中くんが見栄を張ってしまった気持ちもよくわかる。

ちっぽけな嘘だけど、きっとその気持ちは多くの人が共感できるものだと思う。

咄嗟に出てしまう小さな嘘、バレるかは別として意外と自分の心に引っかかってしまうあの感覚。

「嘘だったんだ、ごめん」って言うの、頭では簡単だと思ってるはずなのになかなか言うのは難しい一言だと思う。

田中くん、かっこいいよ。

田中くん、ただの見え張りフリーターかと思いきや、

めちゃくちゃ正直でかっこいい子だった。

最終的な着地地点が作る側なのもめちゃくちゃイイ。

多分この子、盲腸くらいはやるかもしれないけど絶対仕事辞めないだろうな。

でも、盲腸になる前に放送作家・橋本さんが一言かけそうな気もする。

 

この放送作家の橋本役を演じた魔都さんが、前述した後輩だ。

彼の台詞回しの小気味良さが私は大好きだ。

数年ぶりに本人を見たが、私が知っている彼よりも、1.75倍くらい大きくなっていた。

 

平井さんがキャスト紹介のツイートで、彼の事を

「俺の思う構成作家の雰囲気、笑い方をめちゃくちゃ体現している。」(原文ママ)と綴っていた。

私の思う構成作家と解釈一致しているのだろう。

一見怖そうな彼が見せる笑顔はなんだか癒される。

 

そして彼女の音響さん、丸井ちゃんとの掛け合いが最高に好きな魔都さんだった。

丸井ちゃんを演じていた一嶋琉衣さんがこれまた可愛らしい。

ツンデレヤンデレ・ツンツン・…あんたはオタクの虚妄出身なんか?と思ってしまうほどかわいらしい丸井ちゃん。

二次元から出てきたかのような百面相が可愛くて仕方なかった。

 

丸井ちゃんと同期のAD小川ちゃんが、これまた物凄く、既視感がある。

誰かに似ているわけではなく、

「こういう、芸人の追っかけしてた子、いたな」と思わせてくる。

 

小川ちゃんと丸井ちゃんの二人のシーンが印象的だった。

同期だからこそ、いろんな姿を見てきたからこそ、女同士だからこそ、の

とても素直なシーン。強烈な「キュン」を感じた。可愛い。

 

女性キャラクターで群を抜いて印象に残ったのは、

ギャグ芸人矢野さんの奥さん。美智子さん。

(劇中に名前が出てきた記憶が無い。出てきていたのかもしれないので要復習。)

 

この奥さんと結婚したくなった人間が、あの劇場に何人いただろうか。

私も勿論その一人だ。

 

「そろそろ芸人をやめようか」とこぼす旦那に対して、

暖かく背中を押してくれる姿も、

パート先でフリーター田中のミスを庇った後も、

呆れるどころかその後も見守ってくれるその姿も、

 

どこか捻くれた、泥臭い、深夜ラジオの住民たちを

ふわっと受け止めてくれる包容力。

 

あの奥さんを前にしたら誰しも幼児退行してしまうのではないだろうか。

矢野さんとの会話シーンでうっかり涙してしまう、クリエイターや役者は多いはず。

 

 

器用に生きられない、優しい人たちのお話。

 

 

そして90分という見やすいサイズ感も良い。

 

 

悪人が出てこない、誰と見ても気まずくならない、

90分とコンパクトなので疲れない、

観劇初心者にもオススメしやすい作品だった。

 

深夜ラジオヘビーリスナーの友人にこの作品の話をしたところ、

興味を持ってくれたので配信チケットのリンクを送った。

 

早速見てくれたらしく、物凄く楽しんでくれた。

 

彼女にとってはライティングによる場面切り替えや

時系列の流れ、一つのセットで魅せる、などの要素が新鮮だったらしい。

 

同じ作品を見て、感想を言い合える友達がいるのはやはり楽しい。

 

 

…と、最初は少しの不安があったはずが、

心の底から楽しませていただきました。

 

久しぶりの観劇が良いものになったのがとても嬉しい。

小劇場作品の魅力を友人に伝えられたのも嬉しい。

帰りに食べた、中野のオムライス屋さん(https://kurumari.net/)が美味しかったのも嬉しい。

 

なんと、配信チケットを明日(16日)の20:59までに購入すれば

ログインから二週間、いつでも見直せるらしい。嬉しい。

(記事の最終チェックをしている2021年12月15日3:00現在、メンテ中で購入できなかった。)

 

次回作も楽しみだ。

今回勧めて楽しんでくれた友人を連れて行こうと思う。